東京高等裁判所 事件番号不詳〔3〕 判決
主文
本件控訴を何れも棄却する。
控訴費用は控訴人等の負担とする。
事実
控訴人等代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とす、との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
被控訴人は本訴請求の原因として、被控訴人先々代竹村一郞は大正十三年一月一日北原義茂に対し、当時同人に対し負担せる金二千五百円の借用金債務の担保として、一郞所有の別紙目録記載の建物及びその他の不動産に対し質権を設定したところ、義茂から質権実行の申立があり、その結果大正十五年三月十日義茂において右不動産全部を代金千七百五十五円を以て競落し、その所有権を取得し同月二十六日競落に因る所有権取得登記を経由した。その後同年五月三日右両者間に、一郞において金二千円を同月三十一日迄(その後同年六月十八日迄合意上延期された)に義茂に支払うときは競落物件たる本件建物その他一切の不動産の所有権を一郞に復帰せしめる旨の示談契約が成立したので、一郞は右約旨に従い同年六月十八日迄に右金二千円を義茂に完済した結果本件不動産を含む右不動産の所有権は同日再び一郞に移転するに至つた。然し当時一郞は木下信に対する金八百円の債務を始めその他にも債務があり、折角取戻した本件建物についても強制執行等を受ける虞があつたので、これを免れ、財産を保全する目的を以て実妹である控訴人下島しづと合意の上、本件建物の所有名義を同控訴人名義に仮装的に移転し置くことにし、その方法として、当時登記簿上の所有名義が依然義茂にあつた関係上、同人名義を以て同年七月十六日一旦本件建物につき取毀ちを原因として抹消登記をなし、次で同月二十四日同控訴人名義の所有権保存登記を経由したものである。従つて一郞から同控訴人に対する本件建物の所有権移転行為は通謀虚偽表示に因づく無効のもので、本件不動産の所有権は依然一郞に属するものである。その後本件建物については実に昭和二十年五月二十一日、同月十六日附売買契約に因り同控訴人から控訴人愛子に対し所有権移転登記がなされているが、控訴人愛子は前示事情を知りながら右売買契約をした謂わゆる悪意の取得者であるから同控訴人も本件建物の所有権を取得することは出来ない。而して一郞は昭和十五年三月十九日死亡し、同人の長女はつ江の夫竹村清がその家督を相続したが、同人は昭和二十年七月二十二日隠居し、一郞の弟たる被控訴人においてその相続人に指定された結果被控訴人は相続によつて本件建物の所有権を取得するに至つたものである。よつて控訴人下島しづに対して本件建物所有権の確認、控訴人梶愛子に対しては、本件建物所有権移転登記手続を求めるものであると述べた。
控訴人等代理人は答弁として、被控訴人主張の事実中大正十五年五月三日竹村一郞と北原義茂間に被控訴人主張のごとき示談契約成立し、その主張のごとくこれが履行のあつて本件不動産その他の不動産の所有権が北原より一郞に復帰したとの事実は知らぬ。一郞から控訴人下島しづに対する本件建物の所有権移転行為が通謀虚偽表示に因るものであるとの事実並びに控訴人梶愛子が本件建物の悪意の取得者であるとの事実は否認する。爾余の事実は総てこれを認める。控訴人下島しづは大正十五年七月十日本件建物を北原義茂から代金五百円を以て買受けその所有権を取得し、被控訴人主張のごとく同月十六日北原義茂名義を以て取毀ちに因る抹消登記を為し次で同控訴人は昭和二十年五月十六日控訴人愛子に対し右建物を代金五百円で売渡し同月二十一日その所有権移転登記を経由したものである。仮りに義茂並びに控訴人しづ間の右売買契約にして認められずとすれば、控訴人しづは大正十五年七月十日一郞から本件建物を代金五百円を以て買受けその所有権を取得し前述のごとき滅失並びに保存登記を経由し、次で上述のごとき控訴人愛子に売渡し、その登記を了したものであるから、被控訴人において本件建物の所有権を取得する謂れなきものであると述べた。
(立証省略)
理由
被控訴人先々代竹村一郞が大正十三年一月一日、当時北原義茂に対して負担する金二千五百円の債務の担保として一郞所有の本件建物及びその他の不動産に対し質権を設定したところ、右義茂から質権実行の申立があり、大正十五年三月十日義茂において右不動産全部を競落しその所有権を取得し、同月二十六日競落に因る所有権取得登記を経由したことは本件当事者間に争のないところである。而して成立に何れも争のない甲第一号証、同第二十五号証の一乃至四、同第二十七号証、乙第二号証、原審証人宮下儀一の証言により成立を認め得る甲第四号証、原審証人竹村清並びに当審証人北原義茂の各証言によつて成立を認め得る甲第三号証の一、二、右北原義茂の証言によつて成立を認め得る同第十六号証及び乙第一号証、原審証人宮下儀一、竹村義人、竹村清、原審並びに当審証人竹村忠義、北原義茂(原審は第一、二回)の各証言及び原審における被控訴人本人の供述を綜合すれば、その後同年五月三日北原義茂及び竹村一郞間に、一郞において、金二千円を同月三十一日迄(その後同年六月十八日迄合意上延期された)に義茂に支払う時は競落物件たる本件建物を含む一切の不動産の所有権を一郞に返還する旨の示談契約成立し、一郞は右約旨に従い同年六月十八日迄に右金二千円を支払つた結果本件建物を含む右不動産の所有権は同日再び一郞に移転するに至つた事実、然し当時一郞はなお木下信に対する金八百円の債務を始め他にも相当の債務を負担していたので折角取戻した本件その他の右不動産が執行等によつて再び債権者の手に帰する虞があつたのでこれを免れるため木下久太郞、宮下儀一、竹村忠義その他の親類縁故者と協議の上右不動産の登記簿上の所有名義を一郞とせずこれ等数人の名義に仮装して置くことに方針を決め、その結果本件建物についても、一郞においてその妹たる控訴人下島しづと合意の上登記面の所有名義を同控訴人に仮装し置くこととし、その方法として当時未だ本件建物の所有名義が登記面上義茂になつていた関係上、同人をして大正十五年七月十日附同人から同控訴人に売渡した旨の仮装の売渡証書(乙第一号証)を作成させ、これに基き同控訴人名義に移転登記を経由せんとしたところ、当時司法書士であつた右義茂の発案で登記料を軽減するため、右の方法を取止め被控訴人主張のごとく同年七月十六日本件建物につき一旦取毀ちに因る滅失登記をなし、更に同月二十四日同控訴人名義に保存登記を経由して所期の目的を達したる事実、而して一郞は依然右家屋に居住していた事実を認めることができる。右認定に反する原審証人竹村三郞、木下久太郞、下島富士、原審並びに当審証人田中寅蔵、梶藤太郞の各証言、原審における控訴人本人下島しづ、原審並びに当審における控訴人本人竹村愛子こと梶愛子の各供述は採用し難く、乙第一号証も上記認定に明かなごとく反証となすに足らず、尤も原審証人宮下儀一、原審並びに当審証人竹村忠義の各証言によれば、竹村一郞から北原義茂に支払つた金二千円の示談金については、木下久太郞、宮下儀一、竹村忠義等の謂わゆる一郞の負債整理委員等の尽力によつて、同人等を始め親類等から之を調達したものであつて、控訴人下島しづ家からも金百円を借受けた事実を認め得るけれども、他面又その後一郞はその所有の山林、遠距離にある土地等を処分して上記控訴人しづその他の親類縁故者に対する右債務を弁済した事実並びに本件建物は相等な建物で同控訴人名義と為した当時の価格は固より金百円程度の低廉なものにあらざる事実を認め得べく、右各認定に反する前段不採用の各証人の証言並びに控訴人本人等の供述は採用し難いから、右事実を以ては前段の認定を覆すことが出来ないし、その他に前段認定を左右するに足る証拠は存在しない。
然らば本件建物につきなされた控訴人下島しづ名義の保存登記は一郞と同控訴人との間の通謀虚偽表示に因る無効のもので本件建物所有権は依然一郞に存したること明白である。而して成立に争なき乙第二、三号証、当審における控訴人本人梶愛子の供述(但し不採用部分を除く)によれば、本件建物はその後昭和二十年五月十六日控訴人下島しづから一郞の三女である控訴人梶愛子に金五百円で売渡す旨の売買契約が成立し、同月二十一日にこれに基き所有権移転登記が経由された事実を認めることができるが他面成立に争のない甲第十八乃至第二十号証、原審並びに当審証人竹村忠義、竹村義人、原審並びに当審証人梶藤太郞(但し不採用部分を除く)の各証言によれば、控訴人しづと控訴人愛子とは叔母姪の関係にある事実、右両控訴人間の本件建物の売買価格は当時の相場に比し著しく低廉なる事実、昭和十五年三月一郞、その妻が相次いで死亡した際親類が集つたが、その時一郞の長女はつ江(相続人清の妻)からこの際親戚に預けてある財産を返して貰いたいと申出たところ、控訴人しづは、預かつたものだから返すのは当然だが、はつ江も清も久しい間留守にしていたのだから少し両名の様子を見てからにしてはどうかとの提案があり、その席に控訴人愛子も同席して居た事実、その後昭和十八年一月中右はつ江から控訴人愛子その他の親戚に対し、財産返還の件につき協議したき旨の通知がありたる事実を認め得べく(右認定に反する、原審証人竹村三郞、下島富士、原審並びに当審証人梶藤太郞の各証言、原審における控訴人本人下島しづ、原審並びに当審における控訴人本人竹村愛子こと梶愛子の各供述は採用しない。)右各認定の事実を綜合すれば、本件建物の売買が虚偽表示にして、控訴人しづが真実その所有者にあらざることを知りながら、本件建物を買受けたもの即ち惡意の第三者と認めるのを相当とするから同控訴人も本件建物の所有権を主張するに由なきものである。而して一郞が昭和十五年三月十九日死亡し、同人の長女はつ江の夫竹村清がその家督を相続したが、同人は昭和二十五年七月二十二日隠居し、一郞の弟たる被控訴人においてその相続人に指定されたことは本件当事者間に争がない。然らば本件建物の所有権は相続によつて一郞から清を経て被控訴人に承継されたことが明白であるから、控訴人しづに対して本件建物の所有権の確認、控訴人愛子に対しては本件建物所有権移転登記を求める被控訴人の本訴請求は正当で認容されるべきである。
よつて原判決を相当とし本件控訴を棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条第九十三条を適用して主文のごとく判決をする。(昭和二四年一二月二六日東京高等裁判所第三民事部)
(別紙目録省略)